IN/OUT (2007.3.25)

村上春樹訳の「ロング・グッドバイ」が話題になっています。表紙に村上春樹とレイモンド・チャンドラーの名前が並んでいるのを見ているだけで、夢が叶ったような幸福感に満たされるのは、私だけではないはず。話題になるのも当然でしょう。

ハードボイルド(村上春樹は敢えてこの言葉を避けて「非情」系統と書いているが)では、むしろ、ロス・マクドナルドを偏愛する私も、「長いお別れ = ロング・グッドバイ」だけは別格と認める傑作。ということで、早速購入したものの、読書に充てる時間が限定されている中、読了するまでは、まだしばらくかかりそうです。で、恐らく、清水俊二訳を既に読んでいてこの本を購入したほとんどの人がそうしたであろう行為=後書きを先に読んで膝を打つ、今日この頃です。


in最近のIN

"Navarasa" (07.3.25)

性同一性障害の問題を描いたインド映画を観てきた。

主人公は、13歳の女の子。叔父の女装癖に気づいた彼女は、家出した叔父を追って、30万人が集まるというインド最大の女装フェスティバルに迷い込む。

インドでは、こういう「Third Gender=第三の性」を持つ人達の集団として、ヒジュラというアウト・カーストが存在しているそうだ。古来、宗教的祭礼で重要な役割を果たしたり、一方では売春を生業とするものとして貶まされたり、複雑な境遇にある彼(女)らの問題を、性同一性障害として真剣に捉えた映画である。出演者の多くは、本物のヒジュラだそうだ。

ということで、いわゆるBollywood系の作品ではなく、メッセージ色の強い小劇場系の映画なのだが、そこはインド映画。我々が普段慣れ親しんでいるものからは、相当逸脱した語り口だ。一貫性が欠けている印象で、話の焦点がぼやけてしまうと感じる点が多々ある。しかし、夢を売るBollywood作品では見えにくいインドのリアルな市民生活の雰囲気が伝わってくる描写が興味深い。

そして、もちろん、主役の女の子は、劇中、いきなり歌って踊り出すのである。



それにしても、50年以上前に書かれた探偵小説が書店で平積みになっているというのは、驚くべき現象です。「キャッチャー」「ギャツビー」も合わせ、自分が愛する(準)古典を自分の言葉で訳し、ベストセラー上位に叩き込めるというのは、村上春樹は、(当たり前ですが)翻訳家の枠を超えた実力とブランド力を持っているんだなぁと感心しきり。