IN/OUT (2006.11.19)

なんだかんだとばたついていますが、とりあえず、自宅から徒歩圏内に映画館があって良かったと思う今日この頃です。


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"Children of Men" (06.11.19)

P. D. Jamesの小説「人類の子供たち」をベースにした映画を観てきた。邦題は「トゥモロー・ワールド」。

原作は、重厚な本格ミステリを書き続けてきたJamesが、人類が生殖能力を失った世界を舞台に描いた異色SF作だが、この映画は、基本的な設定や登場人物の名前などを引き継いでいるだけで、ストーリーは別物である。監督自ら、「原作を読んでいない」ことを公言していたので、やや白けていたのだが、それでも観に行ってしまうのがP. D. Jamesファンなのである。もっとも、彼女の作品の中では、やはり「ナイチンゲールの屍衣」や「女には向かない職業」あたりが私の好みではあるが。

さらに、監督のAlfonso Cuarónが、私がまったく興味を持っていない「ハリー・ポッター」関係の人ということで、期待していなかったのだが、予想は良い方に裏切られた。

まず、近未来の描写に、圧倒的なリアリティがある。原作で気になった、やや非現実的な独裁国家ではなく、現在の過剰なテロ対策や深刻化する移民問題の延長線上に実現しそうな強権国家を舞台に、子供が生まれなくなって18年、荒廃した町が、説得力を持って描かれている。

徹底して重苦しく緊張感が続く画面は(これはこれで、P.D. Jamesの世界に通じるような気もする)、とても緻密に計算されている感じだ。手持ちカメラによる長回しが続く市街戦のシーンの凄まじい迫力など、監督の力量は只者では無い。今年観た中で、一番感心した映像だ。劇中流れるのが、Deep Purple、King Crimson、RadioheadなどのUKロックなのも印象深い。

これだけの傑作だけに残念なのが、邦題の「トゥモロー・ワールド」。本物の馬鹿が3秒で思いついたような間抜けなタイトルで、これだけは本当に腹が立つのである。



前にも書きましたが、P. D. Jamesの「人類の子供たち」も、映画公開に合わせて「トゥモロー・ワールド」に改題されてしまいました。出版元の早川書房には、激しく失望しています。

抗議の意志を込めて(?)、やはりP. D. Jamesの原作に基づいた傑作、東京創元社から出版された、天才いしいひさいちによる「女には向かない職業」文庫版を、単行本を持っているにもかかわらず購入してしまいました。