IN/OUT (2004.1.11)

旧正月=Chinese New Year が近づいてきました。町中に、赤い色と、中華正月ソングの能天気な調べが溢れています。中華系住民が多数派の当地では、西暦の正月はカウント・ダウン・パーティーがあるだけ。旧正月こそ、お正月!という感じになります。

来た当初は、日本の正月との違いばかりが目に付いたのですが、考えてみれば、獅子舞があって、お年玉をあげるしきたりがあって、この機会に親戚が集まったりして、でも、町の店の大半が閉まってしまうのでちょっと退屈で…。基本的には同じなんですね。


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"Prof. Gunther von Hagens' Body Worlds" (04.1.10)

人体標本の展示会を見に、Singapore Expoへ行ってきた。この展示会は、日本でも「人体の不思議展」という名前で開催されていたと思う。因みに、会場のSingapore Expoは、大規模で立派な展示会場なのだが、昨今の経済状況で稼働率があまり上がっていないように見受けられる、宝の持ち腐れ的施設である。

献体を受けた実際の人体に、ドイツ、ハイデルブルク大学のGunther von Hagens教授が開発したPlastinationという保存技術を施したものが展示されている。骨格や筋肉を強調した全身標本もあれば、神経だけ、血管だけといったもの、各臓器、さらには、縦横にスライスされたもの等々。Plastination処理のため、リアルでありながら、グロテスクな生々しさは感じない。こんな感じ。

人体標本を通じて、「人間」「生命」「健康」などに思いを馳せてもらう。というのが、主催者側の大義なんだと思うし、実際、色々と考えさせられた。

しかし、筋肉を見せるために、死体に「スキーのジャンプ」「やり投げ」「サッカーのゴールキーパー」などの格好をさせるのは、学術的というよりは、受けを狙ってやっているとしか思えない。私は、ブラック・ユーモアを効かせているのだな、という風に受け止めたが、解剖学とアートと見せ物の要素が入り混じった展示は、見る人によっては、腹を立てるかもしれない。それとも、西欧では、絵画や彫刻といった芸術と解剖学が深いつながりを持って発展してきたというバックグラウンドがあるので、もっと違う受け止め方をされるのだろうか。

陰陽や反射区など東洋医学的な考えが浸透しているように感じられるこの国で、人体を徹底して「モノ」として扱った展示会がどのように捉えられるのか、という興味もあったのだが、会場には、家族連れやノート片手の学生さんなどが詰めかけ、それほど特徴的な雰囲気は見受けられなかった。ま、あの会場で大袈裟なリアクションを取っている人がいたら、その方が死体よりもよっぽど怖かったかもしれない。



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"Paycheck" (04.1.11)

Philip K. Dickの短編「報酬」の映画化作品を観てきた。

Dickの作品は数多く映画化されているが、「原作」というよりは「アイディア拝借」程度の扱いで、内容がかなり変えられているものが多い。"Blade Runner"のような奇跡的な例外を除けば、彼の小説が好きな私としては、失望する場合がほとんどだった。そのため、この作品もあまり気乗りはしなかったのだが、監督がJohn Wooだし、Uma Thurmanも出演しているし、ということで、一応、観ておくことにした。

気楽に観る娯楽作としては、そこそこ及第点なのかなと思うが、「大作」に仕上げるための、原作からの変更点が気になる。変更ではなく、水増しと言うべきかな。主人公が、世界を救うという清廉な動機で行動するのも、つまらない。几帳面なまでに伏線を張ったストーリーは、原作を知らずに観ていたら、もうちょっと好意的に捉えられたかもしれないが、もっとシンプルな映像化の方が、絶対に小気味よい作品になったと思う。

John Woo監督にしては、アクション・シーンでの演出が控えめなような気がした。果たして、彼の作品に欠かせない登場人物()「白い鳩」の出番があるのか? ストーリー自体より、その方にハラハラしつつの鑑賞だった。



旧正月休みの前に、買い出しで町が賑わうのも同じといえば同じです。ただ、日本の年末にありがちな、今年一年をしんみりと振り返るという雰囲気が無いように感じます。暮れの「しみじみ感」は、寒くて夜が長い時期に年越しを迎えるからこそなのかな。