IN/OUT (2002.11.3) |
|
はっきりとした訪日スケジュールが決まると、そこからタイミングを逆算して、日本で理髪店に行くのに具合が良いように、こちらで散髪する時期を調整しているのは、私だけかなぁ、と愚考する今日この頃です。 最近のIN"Jessye Norman in Recital" (02.11.1)Jessye Normanの公演を観に、Esplanade Theatres on the Bayへ行って来た。 会場は、Concert Hall。先々週は二階のボックス席だったが、今回は一階のStall席。二列目のど真ん中というベストの席だ。ただ、一階は入り口が二箇所しかなく、休憩時間や終演時、一斉に観客が動き出すと、とんでもない渋滞になってしまうことが分かった。どうも、美的要素優先で観客席をデザインして、動線をきちんと検討していないように思われる。大きな欠陥だ。 さて、Jessye Normanである。実のところ、今回も、新しくできたEsplanade Theatresの調査活動が主目的で、彼女のことは、漠然と声楽家ということしか知らなかった。しかし、どうやら、世界的に超々有名、ヴェリー・ビッグなソプラノ歌手らしい。 伴奏のピアニスト、Mark Markham氏を従えて登場した彼女は、その立体的な裁断の衣装の効果もあって、シルエットだけなら、正面を向いているのか横を向いているのか分からないような、堂々たる体躯である。もちろん、マイク無し。ピアノにもマイクはセットされておらず、純粋な生音だけの演奏。このホールが、とても素性の良い音響特性を持っているのがよく分かる。 声楽家の公演は、これが初めてだった。TVで見ると、なんとも大仰な歌い方で、どうも自分には合わないと思っていたのだが、さすが、その場で聴くと、凄い迫力だ。まさに肉体そのものを楽器としているという感じで、一般的な歌唱とは別次元の技術だと思ってしまう。さらに、ピアノが、伴奏だけに控えめではあるものの、なんとも超絶的な指さばき。それでいて、出てくる音は、あくまでも滑らか滑らか。さすが、クラシック畑の一流者のテクニックは只事じゃない。因みに、Mark Markham氏、黒ずくめの地味な服装に見せかけて、時折見えるジャケットの裏地が金色だったり、何気にさらさらを強調するような髪の振り上げを連発したり。実は、かなり意識的にモテ光線を発射していたのかも。 ということで、テクニック的には圧倒されっぱなし。ただ、日頃馴染んでいないクラシック系の歌曲ということもあり、感情的に揺り動かされるという感覚があまりない。所詮、声楽は、PAが無い時代に、歌声を観衆に届けるために発達した技術で、現代ではその存在意義が薄らいでいるのでは、などと不遜な事も考えたりしていた。そうこうしているうちに、本編終了。アンコールが終わり、主催者からの花束贈呈が済んだ後も鳴りやまぬ拍手に、もう一曲歌ってくれたのが、Gershwinの"Summer Time"。これが、衝撃。えーと、言葉の使い方間違えてるけど、背筋が凍り付く っていうか、なんかもう、固まってしまった。それほど、圧倒的な表現力。馴染んだ曲で彼女の歌声を聴いてみると、ベタな感情移入なんて簡単過ぎるのだ、こういうレベルの人には、と実感。やはり、ジャンルという先入観に囚われず、一流のものには機会有るたびに接しなければ、と思う。 10月13日から続いたEsplanadeのOpening Festival、結局、三公演を観ることができた。いずれも好印象。ロケーションも音響も良く、非常にありがたい設備ができたものである。 私より前に着任していた同僚が離星して、気が付くと関連会社中で、一番、在星歴が長くなってしまいました。ま、他の業種だと10年単位の赴任がざら、というところもあるので、まだまだ若輩者、とも言えるのですが |