IN/OUT (2002.8.25)

先週は、矢野顕子さんの出前コンサートに参加してきました。


out最近のIN

出前コンサート - 前日まで - (〜 02.8.16)

出前コンサートというのは、
 「矢野顕子を呼びたい」という有志からの注文を受け、
 「ピアノ一台あれば、どこへでも」というコンセプトで、
 「コンサートを出前」する
というもの。 既成のシステムにとらわれないコンサート活動として、1982年から(一時、中断があったものの)続けられている、矢野さんらしいユニークな公演である。出前を呼びたいと思う矢野顕子ファンは多いだろうが、良いピアノが見つかり、矢野さん側とのタイミングが合い、そして何より、実際に動き出す思い切りが必要、ということで、これを実現できる人は、決して多くないと思う。私自身、シンガポールに赴任してすぐに、良さそうな会場を探し、企画書を送ってはみたが、やはり地理的な問題が大きく、実現は難しそうである。

しかし、やのコレを通じて知り合った方が、旭川での出前を主催することになった。こちらからお願いする勢いでスタッフ入り。とはいえ、離れた場所で出来ることは、ネット販売絡みのお手伝いと、客入り・客出し時の音楽CD準備ぐらいだった。現場の主催者は、その間、膨大な準備作業をこなしていたようだが、公演の前々日、ようやく押っ取り刀で旭川入りした。

夜行便で関空経由新千歳。そこからJRで、旭川着が金曜の13時過ぎ。ホテルにチェックイン後、当日の弁当候補となっている店の偵察など。北海道は二度目、旭川を訪れるのは初めてだったが、町自体はあまり面白くなく、夕食はホテルのダイニングで済ませた。


出前コンサート - 前日 - (02.8.17)

11時、北海道入りしている他のスタッフ二名と待ち合わせ、会場の島田音楽堂に向かう。ここは、旭川市街から離れた場所にある牛舎を改造した建物で、島田音楽学院の島田氏がほぼ独力で作り上げたそうだ。周囲に人家はほとんどなく、とてもコンサート・ホールがあるとは思えないロケーションだし、外観も、そうは見えない。普段は、島田音楽学院の講師の方などが出演するクラシック系の公演が行われているそうだが、主催者の方が、たまたまTV番組でこの音楽堂が紹介されるのを見たことが、今回の出前コンサートにつながったのである。

島田音楽堂外観いざ、到着してみると、なるほど、元牛舎。写真などで想像していたほどロマンチック度は高くなく、むしろ、農家度が高いというのが第一印象だ。場内は既に平台が設置済みで、かなり準備が進んでいた。椅子並べを手伝ったり、昼食にラーメンを食べに行ったりしつつ、他のスタッフの到着を待つ。

3時前に残りメンバーが到着。スタッフは全国から集まった主催者の友人・知人関連9名。これに主催者を加え、島田音楽学院関係者の協力を仰ぐ、というのが今回の布陣だ。腕に覚えのあるスタッフが、ピアノを弾いてみる。KAWAI製。かつては、ワルシャワのショパン協会本部に置かれ、ショパン国際コンクールの歴代入賞者が演奏したという由緒あるものだそうだが、KAWAIのピアノが矢野さんのコンサートで使われるのを聴いたことがあまりない。また会場の天井が高く、床が石張りなので、かなり残響の多い独特の音だ。ちょっと響き過ぎな感じが、やや不安材料ではある。

その後、買い出し班と看板製作班に分かれ、作業開始。私は道案内用の看板製作。すでに、プリント・アウトされている紙を、スプレー糊で段ボールに貼り付けるだけの作業だが、我ながら不器用さ炸裂である。買い出し班が戻ったあと、場内の椅子をきちんと整列させ、作業終了。本日の宿、美瑛のペンション「We」に向かう。

一風呂浴びて、夕食。ビールがうまい。料理もうまい。皆で場内アナウンスの文案を考えたり、中庭に出て美しい星空を堪能したりで夜が更ける。


出前コンサート - 当日 - (02.8.18)

朝、予定より一時間以上早く起床。分針だけ見て「まだこんなに眠いのにもう朝か」と顔を洗ったのだが、その後で時計の短針を確認してびっくり。携帯メールの着信音をアラームと誤解するような大音量にセットするのは止めていただきたい、と同室者に強く要望。

まずは、旭川市内のホテルに宿泊されている音響スタッフの方を迎えに行く。出前コンサートのスタート時から担当されているベテラン。この後、夜のコンサートに向け、午前中からずっと入念なサウンド・チェックを繰り返し、プロのこだわりと厳しさを見せつけてくれるのだが、同時に、我々素人衆にも気さくに接していただき、一流の方の懐の深さにも感心させられる。因みに、後から到着するマネージャー氏も含め、矢野さん側のスタッフが皆、仕事上でも、人間的にも、「出来た」人達、というのが、とてもありがたく、また嬉しかったのである。

大看板朝は、打ち上げ用料理準備、大看板製作、道案内看板設置、買い出し等の作業。担当した大看板製作では、紙に皺を寄せてしまい、激しく後悔。また、場内での物販用のCDが届き、数量チェックと帳簿の準備も行う。

昼食は、島田さんのご厚意で、野外でのジンギスカン。さすが、北海道。うまい。

道案内立て看板の効果で、たまたま通りかかって当日券の有無を聞きに来る人が何人も訪れる。受付や物販の設置場所を検討。降水確率50% という天気予報で、大いに悩む。また、整列時に渡す靴袋やチラシの準備。楽屋のお片づけ、などなど行っているうち、矢野さんと矢野さん側スタッフの3名様、ついに到着。緊張感高まる。

矢野さんのリハーサルが開始された4時頃、我々スタッフと島田音楽学院関係者で最終ミーティング。駐車場の誘導など、円滑な運営のために重要な部分を島田側の方々に担っていただき、感謝。私は、担当のCD販売の準備。

そうこうするうち、矢野さんのリハーサルが終了し、駐車場に車が入り始める。開場前でも手洗いを使いに来て、我々物販場所を覗く人も多く、ついに本番開始、という感じがしてくる。幸い、天気は持ちこたえてくれそうだ。

18時半、開場。靴を脱いでいただく関係上、出入り口の混乱をさけるため、10人ずつに区切っての入場。女子トイレの数が少なく、長蛇の列ができる。仕方ないとはいえ、申し訳ない。途中から、あまりの列の長さに、男子トイレの個室も女子に開放したのだが、今度はそのせいで、男性諸子が手洗いを使いにくくなったかも。物販の方は、意外にポスターの売れ行きが良い。値段が手頃で記念に好適ということだろう。

そして、演奏開始。お金とCDをまとめて、裏の控え室に入る。最初の二曲をそこで聴いた後、後ろのドアからこっそり場内最後尾に立つ。心配していたピアノの音だが、音響スタッフの方々の手腕と、300人のお客様という「吸音材」の効果で、実に深く豊かな美しい響きになっている。この音色、非常に好きだ。矢野さんの演奏も声も好調。アドリブが多かったり、MCが長かったりして、これはまさに、調子の良いときの矢野さんの姿だ。少々、ステージ上が暑かったようだが、気持ちよく演奏していただけているようで、心から安堵する。(セットリスト等、コンサートの内容はやのコレを参照いただきたく

本編ラスト近くで、物販場所に戻る。場内ではさらに二曲。そして、アンコールが二曲。21時、公演終了。CD販売に精を出し、お客様が退出しきった時点で、売り上げの集計。一方、場内では打ち上げの準備。

終演後22時、矢野さんご一行(音響スタッフの方は、都合で先に帰られたが)、島田音楽学院関係者、PA屋さん、我々スタッフとで、打ち上げ開始。主催者の意向で、打ち上げの料理にもかなり気合いが入っている(スタッフの一名は、本職の板前だし)。関西からの応援者が多いこともあり、たこ焼きの実演付き。ひいき目なしで、おいしい。

矢野さんに直接お言葉もかけていただくなど(やのコレが表示されなくなった=私が、スタイルシートを適用したせいだと思われる。困った)、これまでの疲れが全て消し飛ぶ、素晴らしい時間を過ごす。24時頃、矢野さん達が引き上げた後も、一時間ほど飲み食い、歓談し、本日の宿、美瑛のペンション「薫風舎」へ。


出前コンサート - 翌日 - (02.8.19)

翌朝は、小雨。昨日一日降らずにいてくれた空に感謝。せっかくの綺麗なペンションだが、4時間ほど寝ただけで、食事も取らずチェック・アウト。旭川駅に矢野さん達のお見送りに。

その後、島田音楽堂に戻る。最後の片づけの前に、昨夜の残りの料理をぼつぼつつまみつつ歓談。と、のんびり余韻に浸っていたら、島田音楽学院の関係者の方が、道案内看板を外してきてくれたとの報告。さらにPA屋さんの撤収も始まり、我々も最終片づけ。

早いフライトに乗るスタッフが空港に向かい、残った我々は旭山動物園観光(動物自体より、飼育係の手書き案内板が妙に面白く、動物園好きには一見の価値有り)。蕎麦屋で昼食後、美瑛にさらに宿泊する者、空港に向かう者、車で札幌に向かう者、とばらばらに。私は旭川駅で降ろしてもらい、列車で札幌へ向かう。全国から集まり、一つのことを成し遂げた仲間が、またちりぢりになっていくということで、ちょっと感傷的になってしまう。

ということで、夢のような三泊四日が終わった。自画自賛ではあるが、過去行われたどんな出前コンサートにも引けを取らない、素晴らしい雰囲気の中での、素敵な演奏になったと思う。仕事でも、これだけの達成感を得られることなど滅多にない、本当に価値有る時間を過ごすことができた。矢野さんにはもちろんのこと、全ての関係者と、集まってくださったお客様全員に、ひたすら感謝である。そして、「最強の」スタッフ達にも。



普段のコンサート会場では、周囲の客に対し
「私語をするな!」
「拍手のタイミングが早い!」
などなど、不満を抱くことが多い偏狭な私ですが、今回ばかりは、集まってくださったお客様全員に素直な感謝の念を抱くことになりました。

そうは言っても、性善説に鞍替えしたという訳じゃなく、こちらに帰ってきたら、行列への割り込みが平気な人達や納期を守らないクリーニング屋に悪態をつきまくる日常に、すっかり戻ったのですが。