ちょっと前に公開されたときは見逃してしまったのだが、その後、どうしても見なくてはならないような情報を入手。とりあえず、先に原作本をゲットして読了後、ちょうど発売されたばかりのDVDを手に入れた。
原作本に関しては、よくできたエンターテインメント小説、という程度の感想しか持てなかった。ストーリーも人物設定も工夫されているし、読んでいる最中は、続きが気になって次々とページを進めていく、ということになってしまったんだけど、読み終わってみると、なんか底が浅いという印象になってしまう。良くも悪くも、暇つぶし本、という感じ。
で、映画。先に原作を読んだのは失敗だったようだ。どうしても、原作から改悪されたところが気になってしまって、評価がすっかり下がってしまった。
何よりも、原作の特徴である「詳細な鑑識作業」の描写がきちんとされていないのが痛い。鑑識結果から推理を進め犯人に迫っていく、という原作の迫力が失われ、主人公が単なる「ちょっと勘の鋭い名探偵」になってしまっていて、彼が捜査の主導権を取る必然性が見えてこない。
その主人公だが、性格設定からすっかり毒気が消えて、正義の権化のような人物像になっている。ハリウッドで四肢麻痺の人物を主人公にする上で、あの毒気をそのまま持ち込むのは無理だったのか。原作で白人だったのを、黒人に設定を変えたのは、その分少しでも個性を出そうとした、ハリウッド流ポリティカリーコレクトな設定変更という気がする。いかにもあざとい感じ。
他にも、原作を読んでいて「映像化するなら、ここが肝だな」、と思っていた設定やらエピソードが、ことごとく外されていて、ややがっかり。もちろん、長大な原作をそのまま2時間弱の映画にするのが無理なのは分かっている。脚本の粗筋自体は、かなり巧くまとめたよな、と感心もするのだが、最後に犯人が残す手がかりは、ちょっと安易過ぎ。この犯人は、ああいうヒントは残さんって。
ということで、作品自体は、駄目駄目。あ、ヒロインの手の美しさには、ちょっとドキドキしたな。
しかし、問題のラストシーン。そう、ここで、Peter GabrielがKate Bushとデュエットした"Don't Give Up"が流れる、と聞いて、このDVDを買ったんである。
いやぁ、シーン自体は、いかにもわざとらしいラストシーンなのだが、この曲のイントロが流れた時点で、涙が出てくるっす。良い曲だわ、やっぱり。このエンディングのためだけに観る価値があるっていうか、異常にイントロが長い"Don't Give Up"のヴィデオ・クリップとして観ると良いかも。