IN/OUT1999/5/23


日本で映画館と言えば、絵看板が付き物です。都会の大劇場だと、それなりのクオリティで描かれている物が多いんだけど、地方に行くと、かなりトホホな絵だったりします。

これが、オレゴンには無かった。映画館の表には、上映中の映画の題名が掲示されているだけで、あとはロビーに正規のポスターが貼ってあるぐらい。看板描きの職人がいないせいなのか、ああいうのは米国人には受けないので看板描き職人が育たなかったのか。

シンガポールでも、あまり絵看板を掲げている映画館はありません、っていうか、多くの映画館はショッピング・ビルの中に入居していて、そういった看板を掲げるスペースが無いのでしょう。しかし、そこはアジア。あるところにはあるものです。MRT沿線に、良い按配の絵看板を見つけました。意図的では無い下手さ加減が、絶妙なトホホ感を醸し出しています。

三本立てなのか、三館あるのか、三つの映画の看板が電車の窓からよく見えるところに掲げられているのですが、たいてい、そのうちの一本は、西洋のホラーかSF系。あとの二本が中国語系の映画のようです。で、今週から、その洋物SF系が、"CUBE"になったんですね。もう、この絵看板の脱力ぶりは凄い。どうみても、下水道を逃げまどう国籍不明の囚人。日本じゃ、六本木あたりのお洒落なとこで上映していたのに、すっかり変わり果てた姿に.....。


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日本土産鑑賞強化週間
先週の日本出張で購入してきた物を鑑賞しまくった一週間だった。ハズレ無しだったのが嬉しい。

  • Austin Powers(DVD
    まずは、映画館で見損ねていた、"Austin Powers"。あの、お馬鹿映画"Wayne's World"(日本ではあまり受けなかったようだが、私は結構気に入っている)のMike Myers主演。見事に下品で馬鹿馬鹿しいギャグの連続と、細部にまでこだわったパロディ。馬鹿な事をやっているけど、僕は本当は計算尽くなんだよ、という雰囲気が透けて見えてしまうところが、ややテンポを悪くしているような感じだけど、好きっす、こういうの。

  • Blade Runner(DVD
    テレビ画面じゃなくて、映画館のスクリーンで観るべき映像だとは思うけど、手元に置いておきたい作品でもある。Harrison Fordはこの映画が嫌いだそうだ。確かに、劇中、彼はヒーローらしい活躍はほとんどしていない。どちらかと言えば情けなくうろうろしているだけだ。

  • 2001: a space odyssey(DVD
    これも、テレビ画面じゃなくて、映画館のスクリーンで観るべき映像である。が、一旦再生し始めると、もう止めることはできない。とにかく凄すぎる。何度観ても、Kubrick監督の天才ぶりに恐れ入るばかりである。そのうち、彼の全作品を手元に揃えたいと思う。

  • The Exorcist(DVD
    いわゆるオカルト映画の元祖と言うべき映画だけど、今、改めて観てみると、ショッキングなシーンの連続と言うには程遠く、エンターテインメント色はあまり感じられない。「邪悪なる物」を真っ正面から描こうとした文芸作品の趣である。しみじみと良い映画だなぁ、と感心する。本当は、原作者の意図を離れ、独自の展開を見せた"Exorcist II: The Heretic"の方が強い感銘を受けたのだが、あれ、一般受けしなかったんだよなぁ。

  • Muthu(DVD
    エンターテインメントとしては、一つの頂点を極めていると思う。いつ見ても楽しい。こっちに来てから、インド系の映画をテレビで目にする機会もあるが、大抵のインド映画は日本人には理解不能。つまらない。インド歌謡のVideo Clipも、2曲続けて見たらそれだけで胸焼けしそうになるものが多い。「ムトゥ 踊るマハラジャ」の楽しさは、まさに奇跡である。

  • Return to The Centre of The Earth(CD
    Rick Wakemanのソロアルバム。あの名作「地底探検」の続編である。わざわざ日本で買う必要も無いのだが、見つけたからには買っておかねばなるまい。London Symphony Orchestra、English Chambr Choir、Ozzy Osbourne、Bonnie Tyler、Trevor Rabinといったそうそうたるメンバーに加え、ナレーションは、エンタープライズ2代目艦長でお馴染み Patrick Stewart。見事なまでに時代錯誤的豪華絢爛的大袈裟な一大シンフォニー。1999年にこういう作品を世に問うRick Wakemanの心意気や、潔し。

  • さかだち日記(書籍
    中島らもの新刊。一時は、このまま廃人かと心配させられたが(まぁ、彼がどんなに酷い状態になって、どうしようもない作品しか生み出せなくなったとしても、腐れ縁的に読み続けるんだろうけど)、どうやら、アル中薬中の最悪の状態は脱したようで何よりである。

  • スプートニクの恋人(書籍
    今週は、レポートの提出納期を抱えていて、本当は、こんなに色々と見たり聞いたり読んだりしている暇は無かったのである。それで、村上春樹の新刊だけは、そういった事を片づけてから、ゆっくりと味わって読もうと思っていた。しかし、レポート書きの合間、ちょっとだけ、と思って読み始めたらもう止まらない。ストーリー展開とかじゃなくて、氏の文章それ自体が持っている力のせいだ。具体的にそれが何なのかよく分からないが、私にとっては、他の作家の文章では感じられない、もう一段階、心の深いところに直接届く力を持った文体なのだ。

    ひねった比喩、気取った会話、前半、時空を前後させ断片を提示しながら、後半、一気にストーリーを運んでいく構成、孤独、行き止まり、あちら側の世界、喪失感......。最初は、セルフ・パロディかと疑うほどの、「村上春樹的キーワード」の連続で、強烈な既視感を覚えた。しかし、ラスト近くに登場する少年の存在と、エンディング(単純なハッピーエンドなのか、今のところ自信が無い。しかし、読後感の良い終わり方であるのは確かだ)を読んで、過去の作品とは違う現実との関わり方が示されているように思えた。何か、とても力強く感じられるのである。国立に住むK(これ自体にも親近感を覚えるが)に対して抱いたリアルな感触が、過去の氏の作品における「僕」から得たものとはちょっと違うのも印象的である。何度も読み返すことになりそうな良い小説だと思う。

    おかげで、すっかり時間が足りなくなり、レポートの方は、我ながらいい加減な物になってしまったのは言うまでもない。



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DVDの謎、もしくは、知ったかぶりは無駄遣いの元  (99.5.17)
当地でDVDプレイヤーを購入した事は以前書いたが、DVDプレイヤーとDVDソフトには地域コードというものが設定されている。北米は「1」、日本は「2」、アジアは「3」....という具合。それぞれの地域で販売されているプレイヤーとソフトには、それぞれのコードが付与されていて、他のコードのものは再生できない。例えば、日本で販売されているプレイヤーでは米国で販売されているDVDソフトを再生できない、ということである。これは、映画の公開時期が国によって違うことからハリウッドの映画会社が要求した制限だそうだ。これ、豆知識。

ということは、私が当地で買ったプレイヤーでは、日本で売られているDVDソフトの再生はできないということになる。が、日本に出張した際、HMVで「ムトゥ 踊るマハラジャ」のDVDを発見。猛烈に欲しくなってしまった。あの映像極楽浄土が、いつでも好きなときに体験できるなんて、と思った次の瞬間、上に挙げた一連のDVDソフトを持って、私の身体はレジにテレポートしていたのだった。自宅でビデオを見ることはほとんど無く、どちらかと言えば、ビデオ・クリップが納められたVideo CDの再生用にDVDプレイヤーを買ったのだが、物欲をそそる何かがあるのだ、DVDというメディアには。

さらに、自宅のプレイヤーでは再生できないソフトを衝動買いしてしまって、どうしたもんだか、と思った次の瞬間、私の身体はさくらやのレジにテレポート。気が付くと、DVD Discmanを購入してしまっていた。やれやれ。

日本で買った、地域コード「2」(日本市場向 輸出禁止商品と明示されている.....)のDVDを、日本で買ったDVD Discmanで再生するという真っ当な使い方をした後、試しに、東南アジア仕様、コード「3」のプレイヤーでは再生してみたところ、何と、ちゃんと再生できる。日本語字幕も出る........。ええぇっ? なんでだ?? 私の豆知識は??? テレビが、NTSC/PAL両対応だからだろうか。これなら、DVDソフトだけ買ってくれば良かったのだ。



あと、日本では「映画秘宝EX この映画をみろ! '99」も買ってきました。個人的には日本で一番信頼できる映画情報誌です。で、驚いたのが、例によって、あまりにも酷い邦題の数々。海外に住んでると、こういう機会じゃないと、映画の邦題って分からないもので。

米国では批評家受けも良く、そこそこヒットしていた「The Opposite Side of Sex」の邦題が「熟れた果実」。まぁ、"Sex"という単語をタイトルに使いにくかったのかもしれませんが、ちょっとねぇ。

でも、これは曲がりなりにもタイトルを日本語化しているから許そう。最悪なのは、「Stepmom」の邦題「グッドナイト・ムーン」。なんじゃそりゃ?? One Wordの原題を、Three Wordsの訳の分からん英語にしてどうする?? 日本じゃ英語は義務教育なんでしょーが。映画配給会社関係者の猛省を望む。


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