IN/OUT (2007.12.2)

12月になりました。学習能力が無いかのように毎年同じことを感じてますが、やはり一年過ぎるのは早いなぁと驚く今日この頃です。


in最近のIN

P. D. ジェイムズを褒め称える07.11.28

英国の推理小説作家、P. D. ジェイムズの17冊目の長編「灯台」(本国では2005年の出版だが、日本語翻訳版は2007年の発行)を読了。これで、彼女の長編作品を現時点ではすべて読み終えたことになる。

P. D. ジェイムズは1920年=大正九年生まれ。最初の作品「女の顔を覆え」が1962年の出版。それから43年間で17冊。ミステリ作家としては寡作だろう。その作風は、まさに重厚長大。エンターテインメント的要素は少なく、ほとんど純文学としても通用しそうでありながら、本格推理小説の枠を守りぬいた作品は、取っつきにくいのだが、一度はまってしまうと、その奥深さの虜になってしまう。最新作「灯台」でも、彼女の特徴である、脇役一人一人まで丹念に書き込んだ人物描写と精緻な構成は、衰えを見せない。この完成度の小説を85歳で執筆したとは、畏敬の念を禁じ得ない。

ほとんどの作品で主人公となるのは、エリート警察官(警視長にまで昇進する)であると同時に詩人として高い評価も受けているとういう設定のアダム・ダルグリッシュ。P. D. ジェイムズが尊敬するという女流ミステリ作家の先人 ドロシー・L・セイヤーズが、作中の名探偵、ピーター・ウィムジー卿に理想の男性像を投影させたのと同様、ダルグリッシュにもP. D.の理想像が反映されているのだろう。ただ、セイヤーズ自身が恋をしているかのようにミーハー的に美化したウィムジー卿と違い、警察官=犯罪捜査のプロフェッショナルにして詩人=芸術家でもあるダルグリッシュは、より論理的に美化された男性像という感じがする。

一方、男性主人公が美化された存在である分、女性登場人物には、より人間味溢れる性格付けがなされているのも、セイヤーズと同様だ。しかし、ウィムジー卿との結婚で幸せを掴むハリエット・ヴェインには、セイヤーズの生きた時代の女性の限界が感じられるのに対し、P. D.が描くコーデリア・グレイやケイト・ミスキン警部の健気さは、より現代的で共感を覚える。彼女の重厚な作品群の中では比較的読みやすい「女には向かない職業」の主人公、コーデリア・グレイはダルグリッシュ以上に一般的人気があるキャラクターだが、私としては、後期の作品になるにつれ、どんどん人物像に奥行きが増していくケイト・ミスキン警部が一押しである。

そして「灯台」では、作者自身がそろそろ執筆活動の終わりを意識したのだろうか、ダルグリッシュやミスキン警部、さらにピアーズ・タラント警部やベントン-スミス部長刑事といったレギュラー陣一人一人に、それぞれ明るい未来を予感させるラストを用意している。P. D.にしては大盤振る舞いのサービス精神だが、これがまた、実に心地よい読後感を与えてくれる。17作付き合ってきて良かったと、読者冥利に尽きるのである。

それでも、あと一作ぐらい、ケイト・ミスキン警部の今後の活躍を読んでみたいと思うのが、わがままな読者の願いでもある。「灯台」の解説文で新保博久氏も書いているように、九十代で長編を発表した英国ミステリ界の先達、イーデン・フィルポッツの例もあるのだから。


原美術館 - "Pipilitti Rist: Karakara"07.12.1

北品川にある原美術館に行ってきた。

現在開催中なのは、「ピピロッティ リスト:からから」。スイスの女性アーティスト Pipilotti Ristの展覧会だ。「からから」というタイトルも、彼女自身が日本語の「からから」という言葉(乾燥した状態を示す言葉であり、屈託のない笑い声を表す言葉でもある)から付けたものだそうだ。

大小11の作品が展示されているが、ポップな色合いと軽やかなイメージの中にグロテスクさが同居する、非常に印象的な作品ばかりだった。観客がその中に身を置くことで初めて完成するインスタレーションの特徴が生かされており、「ダイヤモンドの丘の無垢な林檎の樹 - Apple Tree Innocent on Diamond Hill」の中に腰を下ろしたり、「星空の下で - Under the Sky」や「あなたに大賛成 - I Couldn't Agree With You More」などのスクリーンに見入る時間は、ただただ心地よい。分かりやすさと奥深さが両立した、私好みの現代美術だ。

そしてまた、初めて訪れた原美術館自体も、実に良い感じの空間だった。元々は、1938年に竣工した、実業家・原邦造氏の邸宅だったそうだ。こぢんまりした佇まいの戦前の建物が、現代美術専門の美術館になっているところが、逆に効果を高めているようだ。また、庭に面したカフェの居心地良さも格別。私的お気に入りの場所ランキングの上位に一気に躍り出たのである。



大分前に申し込んだマイレージ無料航空券がいまだにWaitingのまま。そろそろ困ってきました。年末年始のスケジュールは、果たしてどうなる?