映画・音楽等の娯楽/芸術分野においては、日本はかなりの(特に英語圏に対しては)輸入超過状態である。全世界を市場とする英語圏の映画・音楽等は、掛ける予算も蓄積された人材も日本とは桁外れであり、我々を大いに楽しませてくれる。しかし、我々がそれらを鑑賞する際に、「言葉の壁」が大きく立ちはだかる。その壁を取り除いてくれるのが、「翻訳」という作業である。
さて、映画にも音楽にも、個々の作品は「タイトル」が付けられている。これは、単に作品を識別するための記号としての役割を担うのみならず、その内容を示唆し、さらにキャッチコピーとしての機能も果たしている。よって「タイトル」の「翻訳」は極めて重要であり、翻訳者、あるいはマーケティング担当者の腕の見せ所だと言える。このページはそうした「翻訳されたタイトル」の中で印象的なものを収集するものである。
あ
彩(Aja)
完璧音楽ユニット、スティーリー・ダンの代表アルバムです。発音は「エイジャ」なんだけど、確かに「あや」とも読めるような気がしますもんね。
あの頃ペニー・レインと(Almost Famous)
1973年を舞台に、ロックバンドのツアーに同行した15才の少年を描いた映画。確かに原題は映画を見ないことには、本当の意味が分からないけれど、この邦題も訳分からない。一応、ペニー・レインというのは、女性登場人物の名前。作品を見終わった配給会社の人が、そのときの感傷的な気分のまま気取って付けたって感じで、原題のダブル・ミーニングが活かされず、この映画の素晴らしさを矮小化してしまっていると思う。
インデペンデンス・デイ(Independence Day)
映画史上最高の特撮を駆使して描かれる侵略物の傑作、米国で空前の大ヒット! と聞いて興奮したけど、監督がローランド・エメリッヒと知って、一気に興味が薄れちゃいました。まぁこれぐらいの気合で「ゴジラ」も監督してくれたら見直してあげるから、エメリッヒさん。しかし、これだけ英語教育が普及したのに、「インデ
ペンデンス」は無いんじゃないの。なんか「ビルヂング」みたいな表記だよなぁ
# 横須賀に行った時(96/11/23)、先行上映やってたんで入ろうかと思ったんだけど、米
軍基地の近くだったんで気後れして止めちゃいました。米兵でいっぱいの劇場で見るのはなんか恐かった。(^^;;
インテル入ってる(Intel Inside)
邦題じゃなくてCM Copyだけど、これ、上手いですねぇ。英語より日本語の語呂の方が良いもんなぁ。この広告は元々インテル・ジャパンが本社に提案したものらしいから、それも当然か。しかし、CPUの宣伝をテレビでやるか? しかもパソコンメーカーのCMの中にまで登場するとは、インテルおそるべし。
か
原子心母(Atom Heart Mother)
ピンクフロイドの傑作アルバムのタイトルです。直訳のようでもあるし、観念的な深い意味を持っていそうだし、いい感じを出しています。他にも"The Dark Side of the Moon"=「狂気」なんてのも同じ傾向ですね。あえてシンプルに漢字だけで攻める。しかし、最近のフロイド邦題「鬱」とか「対」とかは、かなり無理して漢字を当てはめようとしていて感心できませんね。(thanks to 入江さん)
現金に体を張れ(The Killing)
1952年製作の、Kubrick監督のハリウッド・デビュー作。人物設定がステレオ・タイプ過ぎるきらいはあるものの、緊張感あふれる画面と緻密な展開で、ぐいぐい引っ張っていく力強さと、特に、ラストの構図の格好良さは、さすが、Kubrickと唸っちゃう。シンプルな原題は、全編を貫くハードボイルド・タッチにぴったりだけど、いかにも犯罪映画らしい邦題も、結構良い感じ。因みに、この前作"Killer's Kiss"の邦題「非情の罠」は、ちょっと気負いすぎのような気がする
恋はメキメキ(If I Only Knew)
トム・ジョーンズの曲です。さびのところの"make you make you love me"が、「メキメキ ラーブミイ」と聞こえるところから付けたのでしょう。雰囲気はなんとなくOKって感じもしますが、すごい思いっきりですね。あたかも、J.B.の"Sex Machine"に「恋はゲロッパ」ってタイトルつけるようなもんだもんな。
さ
ザ・インターネット(The Net)
サンドラ・ブロック主演のサスペンス映画。この手の最新の話題を絡めてハラハラ・ドキドキの映画を作るのはハリウッドの十八番。
さて、原題は、「コンピュータネット」と「わな、落とし穴」の"Net"の持つ二つの意味をかけたものだと思われるが、翻訳は、最近のバブル人気に便乗とばかり"インターネット"になってます。
地獄の再会(KISS MTV Unplugged)
KISSのアルバム/曲タイトルはどれもこれも馬鹿馬鹿しい邦題になっていて笑わせてくれます。とりあえず「地獄の」を付ければ良い、という担当者の思い込みがすごいですね。まあ、これはKISSに限らずIRON MAIDENなんかにも言えますね。でも、これ、MTVのアンプラグドですよ? 確かに、久しぶりのオリジナル・メンバーでの演奏ではあったんだけど....
死ぬのは奴らだ(Live and Let Die)
これは素晴らしい。原題を直訳すると「生きよ、かつ、死に至らしめよ」とでも言いましょうか。しかし、これじゃ、ポール・マッカートニー&ウィングスが演奏する同名主題歌のさびにもなってる、この題名の語呂の良さが死んじゃいます。簡潔にして原題のニュアンスも損なわず、いかにもスパイアクションらしいこの邦題、脱帽です。
スパイ大作戦(Mission Impossible)
昔懐かしのテレビドラマですが、なんとトム・クルーズ製作・主演で映画化されましたね。きっと日本公開時には「ミッション・インポシブル」てなタイトルになるんだろうけど、このテレビ放映時の邦題の方が好きだなぁ。「スタートレック」より「宇宙大作戦」だし、(どっちも、xxx大作戦 という安直なものではあるけど)、「ビバリーヒルビリーズ」より「じゃじゃ馬億万長者」の方が絶対にいいと思う。ただし「Fireball XL-5」が映画化されたときに「谷啓の宇宙冒険」ていうTV放映時の邦題になっちゃうと、ちと、まずいような気もする。
007 危機一発(From Russia with Love)
基本的に、誤字ってとこからしてすごい。「危機一髪」が正しい。この邦題は、あの水野晴郎氏が付けたという噂ですが。大体、スパイ映画のシリーズ物なんだから、主人公が危機にあるのは当たり前なわけで、何の説明にもなってませんね。後には「ロシアから愛を込めて」と、原題に忠実な邦題に変更されました。(thanks to seemeさん)
は
ハートに火をつけて(Light My Fire)
The Doorsの出世作。1967年の作品です。キーボードの軽い調べと深い闇をたたえたようなジム・モリソンのヴォーカルが見事。村上春樹氏が何かのエッセイで、「ここで火をつけるのはハートみたいなやわな物じゃなく、ジム・モリソンの肉体そのものだ」みたいなことを書いているのを見た記憶があるけど、言い得て妙ですね。
博士の異常な愛情(Dr. Strangelove or: How I Learned to Stop Worrying and Love the Bomb)
Stanley Kubrick監督のブラックコメディーの傑作です。"Dr. Strangelove"というのは人名なので、直訳すると「ストレンジラブ博士、あるいは、いかにして私は心配するのを止めて爆弾を愛することを学んだか」とならなければいけません。この邦題じゃ、変態博士の出てくるすけべ映画と勘違いされそうです。まあ、ピーター・セラーズの変態的怪演が見物の映画なので、それなりに雰囲気は出てますかね。
吹けよ風、呼べよ嵐(One of These Days)
ピンクフロイドの名曲ですが、原題とは全然違う邦題になっています。インストで歌詞がないから歌の意味を気にしないでいいというのは分かるけど、じゃあ、風がうなるようなサウンドだからこう付けましたっていうのは、日本人のリスナーを馬鹿にしてるような気がする。
フェティッシュ(Curdled)
タランティーノ製作総指揮のブラックコメディ。原題は「(恐怖で血液が)凝固する」の過去分詞。邦題の方は、主役のガブリエラちゃんの殺人に対する異常な好奇心をフェティシズムととらえてのものなんだろうけど、ちょっと違うような気がする。私なら『ガブリエラちゃんのぎもん、「なまくびってしゃべるの?」』と言う題(長い!)をつけるな。